破綻状態に陥った場合(自力再建が不可能になった場合)は、私的整理計画や法的整理計画(民事再生法における再生計画や会社更生法による更生計画など)が作成されるわけである。 以上より、本節の前半2ー3では、自力再建における再建計画について、後半4ー6では、私的・法的整理における再建計画について説明する。
問係者の利害得失そもそも「再建計画」とは、会社の将来の運営方針を具体化しているという点では会社が健全であるときの「経営計画」と類似しているものの、財務的危機に直面している債務者企業にとっては、自己の存亡をかけて必ず達成しなければならないという点では本質的には異なるものである。 自力再建であれ支援段階であれ、この計画をもとに関係者一人一人を納得させ、場合によっては外部支援を引き出す究極の武器になるため、この計画の出来栄えによって再建が可能か否か決まるといっても決して過言ではなこの意味において、再建計画を説得力あるものにするためには、利害関係者が債務者企業の再建にあたってどのような利害得失を有しているかを理解しておくことが重要である。
以下では、再建計画の策定手続に入る前の利害関係者ごとの思惑について整理しておく。 @債務者の思惑・再建ビジョンをどのように設定するか?・再建計画(将来事業計画の見込)をどのようにつくるか?・キャッシュフローは今後どれくらい創出できそうか(いくら・いつ弁済できそうか)・リストラ(部門売却など)は実行できそうか?A債権者の思惑・再建計画の達成見込みはあるか?・いくら回収できそうか?・再建計画により事業の再生は可能か?・再建後の取引は期待できるか?Bスポンサー(バイヤー)の思惑・投資に対して十分なリターンが得られるのか?・自社事業とのシナジー効果(相乗効果)は期待できるか?・事業部門別の損益が明確に把握できるか?・コア事業・ノンコア事業の切り分けは明確か?・事業部門の買収価額や当該債務者への投融資額の決定に資する資料が十分かつ適切であるか(将来の事業計画は信頼しうるか)?以上、関係者の利害得失の一例を列挙したが、これを念頭に置けば、おのずと再建計画に何を折り込めばいいのかが明らかになってくるはずであろう再建計画の策定:本項では具体的な再建計画の策定について説明する。
以下では、自力再建における再建計画の策定の手順を概説する。 (1)事業計画(Version)の作成:第2章第3節「2分析のフレームワーク」を思い出していただきたい。
債務者企業分析の第一歩は会社(または会社グループ)を最適な事業単位に分解し、当該企業の価値連鎖を把握することであるが、これを応用し、まず最初に各事業単位別での事業計画(図表3ー32)を作成する(これを本書ではVersionlという。 注意すべきことは、可能な限り正確な貸借対照表と損益計算書が算定できるレベルでの事業部門に分解すべきことである(たとえば、ホテルチェーンであれば各ホテルごとに、小売チェーンであれば小売店舗ごとに当該事業計画シートを作成することが望ましい)。

あまり詳細に分解してしまうと、計画の全体像が把握しにくくなり数字自体の信愚性を害することにもなりかねず、また、あまりに大ざっばすぎると、どこに価値があるのかが不明瞭になるため、会社ごとに最適と思われる事業単位に分解しなければならない。 事業部門を分解することの意義は、バリューマッピングによる価値分析(第2章参照)を可能にすることであり、この手続により、どの部門を継続させ、どの部門を売却または清算すべきかが明確になり、さらには数字による裏付けがあるため第三者や会社内部(マネジメソトや従業員)への説得力が強くなるのである。
いうまでもないが、事業部門の数だけ事業計画シートが作成されるため、これを合計したものが会社全体の財務数値に合致していなければならない。 すなわち、事業部門に加え本社間接部門(総務経理部門や研究開発部門など)のシートも作成し、常にこれらの合計が会社全体の数字に合致することを確認しながら、事業計画シートを作成しなければならない(エクセル等のパソコンソフトの合計値計算機能を使用することをお勧めするー図表3ー33参照)。
(2)事業計画の修正:このようにして作成した事業計画をより精撤なものにするために、いくつか修正を施す必要がある。 以下では、AJE修正と個別修正の二つの考え方について説明を行う。
なお、財務上の個々の勘定科目や営業取引項目の修正については、第1章第2節「4不良債権発生のメカニズム」で説明されている「さまざまな悪化兆候の見抜き方」の解説が非常に参考になるのでこちらもあわせて参照されたい。 AJE(AdjustmentJournalEntry)修正直近期の財務数値が正常収益力の把握や企業会計等の観点からみて完全なものであれば修正の必要はないが、財務的危機に直面している債務者企業の財務諸表には通常なんらかの会計的な減損や時価修正が加わる可能性が高い。
たとえば、仮に「その他の有価証券」について時価評価を適用してみるとか、(販売用不動産のみならず)すべての固定資産について減損の有無を検討してみるなど、現行の会計制度や重要性の議論にとらわれずに時価ーの修正を行い、真の純資産や損益を明らかにする作業を行うのである。 これにより時価純資産(直近期の貸借対照表についてAJE考慮後の資本の部)が算出され、本シートで同時に算出される株主価値(営業フリーキャッシュフロー(営業FCF)の現在価値の合計から現預金や借入金を加減算したもの。
第2章参照)と比較することで、当該事業部門には営業権(のれん)が発生するかどうか(将来収益力があるかどうか)が把握できるのである。 これらを表と図の形式で表現したものがバリューマッピングであり、後述する再建シナリオ設定の基礎となるのである。
b個別修正たとえば、将来計画(図表3ー32ではYearlからYear3の3期間)の売上高が過大であったり、人件費の削減が実現不可能なレベルであったり、とかく財務的危機に直面している債務者企業の将来計画は菩夜色に作成される傾向にある。 これは計画作成が、まず全体損益を作成し後に事業部門に割り振るという従来的な作業によってつくられていることに起因しており、つまり全体を右肩上がりで作成してしまえば、減収要因のある事業部門までもが右肩上がりになってしまうために起こりうる現象なのである。
したがって、本項の手続のような積上方式(まず事業部門ごとの計画を策定し、全体を合計する)にすれば、このような弊害はなく、より実体に近い計画になりうるものと考える。 しかし、それでも売上や販管費をさらに修正すべきところがある場合や、また会社が考えるリストラプラン(人員リストラや不動産の売却など)や現金支出(設備投資による支出や人員リストラによる特別割増退職金の支出など)を追加的に考慮すべき場合などは、あらためてこれらにより事業計画を補正すべきである。
修正方法については、この補正項目を直接入力するのではなく、別シート(個別修正シート)に補正分のみの修正仕訳を記載し、やはりエクセルの合計値合計機能により全体を再合計する作業をお勧めしたい。 これにより当初事業計画(Version1)から何を修正したのか履歴が残り、後の計画説明に都合がいいのである。
以上の手続を終え、より精微な事業計画(本書ではVersion2という)が作成され、後述する弁済計画の基礎となるのである(図表3ー34参照。


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